ピッチベンドで音程を変化させる

ギターやバイオリンのような弦楽器、トランペットのような管楽器、人の歌唱などは「わずかに高いドの音(ドのシャープよりも低い音)」など、微妙な音程を鳴らすことが出来ます。
この微妙な音程変化がその楽器らしい音となっていることも多いのです。
またポルタメント奏法などもピッチベンドで再現することが多いです。

■ピッチベンドの例

メインメロディのストリングスの数箇所にピッチベンドを掛けています。
(キュイーンという感じの音)
はっきりと分かるようにかなり大げさに掛けていますが、普通はもっと目立たないようにさりげなく掛けます。

なめらかに音程変化させる以外に、急激に(階段状に)ピッチベンドさせるとアタック音を出すことなく別の音程の音を演奏することが出来ます。
これを利用してギターのスライドなどの奏法を再現することもあります。

このような音程は、MIDIではピッチベンドを使って再現します。
ピッチベンドはコントロールチェンジではなく独立したメッセージとして用意されています。

ピッチベンド(PitchBend)
メッセージ 設定値 説明
ピッチベンド -8192~0~8191
(0~8192~16383)
音のピッチ(音程)を変化させる

ピッチベンドは-8192~0~8191の間で設定します。
0が音程に変化なし(ピッチベンドが効かなくなる)、-8192で半音2つ分低く、8191で半音2つ分高くなります。
「ド」の場合は-8192に設定すると「シ♭(ラ♯)」、8191にすると「レ」の音と同じ音程になります。
(通常はグラフで線を書いて打ち込むので、数値を意識して打ち込むことはあまりありません。)

ピッチベンドセンシティビティ

上でピッチベンドは半音2つ分の間で変化すると説明しましたが、これは多くの音源で初期値がそうなっているというだけで特に定義されているというわけではありません。
ピッチベンドの変化幅のことをピッチベンドセンシティビティまたはピッチベンドレンジと言います。 ピッチベンドセンシティビティは「RPN」という特殊なコントロールチェンジで設定することが出来ます。

※NRPNおよびRPNはGM対応音源でないと対応していないことがほとんどです。
ソフトシンセなどGM対応音源を使用しない場合はNRPN・RPNの説明は読み飛ばしてもかまいません。
またNRPNは音源によって対応状況が異なりますので、使用音源が対応しているかを確認してください。

ピッチベンドセンシティビティ(PitchBend Sensitivity)
メッセージ 設定値 説明
CC101 0 RPN MSB(固定)
CC100 0 RPN LSB
0でピッチベンドセンシティビティを指定
CC6 0~127 Data Entry MSB
0で変化なし、1で半音1つ分、12で1オクターブ

ビブラートの時に「NRPN」というのが出てきましたがそれと同じようなものです。
CC100とCC101はRPN(レジスタード・パラメーター・ナンバー)といって、3つのコントロールチェンジで一つの設定を行います
NRPNとの違いは、RPNはGM音源なら確実に対応している点です。
(ただし最近のソフトシンセなどはそもそもGMに対応していないものが大半です)

CC101=0、CC100=0でピッチベンドセンシティビティを指定したら、CC6で変化幅を設定します。
ピッチベンドの変化幅を最大にしたときに(-8192または8191)音程を1オクターブ変化させたい場合は値を「12」に設定します。
多くの音源では「2」が初期値になっていることが多いようです。
あまり大きな値を設定しても音源が対応していない場合もあります。

以下に、レンジを12に設定した時の半音ごとのピッチベンド値を示しておきます。
要するに、8192を12で割った数値です。

音程(半音) ピッチベンド値
1 683
2 1365
3 2048
4 2731
5 3413
6 4096
7 4779
8 5461
9 6144
10 6827
11 7509
12 8192

ピッチベンド打ち込みのコツ

音質の変化

ほとんどのGM音源(PCM音源)では、音の再生速度を変化させることでピッチベンドの音程変化を実現しています。
たとえばドからレに音を変化させるとき、内部的にレのサンプル音は再生されず、ドのサンプル音の再生速度を変化させてレ音に作り変えています。

そのため音質に変化が起こります。
半音や全音程度ではあまり気にならないかもしれませんが、変化幅が大きくなると音質変化が問題になります。
特に高いほうへ変化させると安っぽい音になりやすいです。

そこで高いほうへ音程変化させる場合は、あらかじめピッチベンドを下げてから元に戻すという方法がよく使われます。

■ピッチベンドでの音痩せを防ぐ
ピッチベンドでの音痩せを防ぐ

上図のピッチべンドレンジは「2」だと思ってください。
どちらもレからミへ滑らかに音程変化しますが、左側だとミが音痩せします。
右側のように音符自体はミを打ち込み、音程を下げてから元に戻すことで音痩せを防ぐことができます。

音程の変化幅が広い場合、ピッチを低くし過ぎても高くし過ぎても音が不自然になることがあります。
そのような場合は真ん中を中心にしてピッチを上げ下げすると多少はマシになります。

■ピッチベンドの音質変化をなるべく抑える
ピッチベンドの音質変化をなるべく抑える

音質が変化することを逆手にとって、極端に音を高くまたは低く変化させることで全く違う楽器として使用することもできます。
たとえばタンバリンの音色を1~2オクターブほど下げると打楽器のような独特な音色になります。

■タンバリンのピッチを2オクターブ下げた例

前半は通常のタンバリンの演奏、後半はタンバリンのピッチを2オクターブ下げたものです。
深くリバーブを掛けると効果的です。

なお、このような音質の変化が起こるのはオーディオデータを再生する方式のMIDI音源(PCM音源)の場合です。
つまり生の楽器の音を再生するタイプの音源です。
アナログシンセなどは音質の変化は起こらず、何オクターブでも自由に音程変化させることができます。

楽器の種類に注意

音程の変化は楽器によってその演奏方法は異なります。
例えばピアノなどは構造的にピッチベンドはできないので、使用すると不自然な演奏となります。
なので、特殊な効果を狙う以外では使用しません。

バイオリンなどは滑らかに音程変化ができますが、ギターはフレットがあるのでスライドさせる場合、半音ごとに音程が変化します。
この辺のことはGM音源/ギター類の項で改めて説明します。

ピッチベンドでビブラートを再現

ビブラートの項目でも説明しましたが、ピッチベンドを使ってビブラートを再現することも出来ます。

■ピッチベンドでのビブラートの再現
ピッチベンドでのビブラートの再現

このように音の揺れ方を細かく書いていくという単純な方法です。
ピッチベンドでのビブラートは音程の揺れの速さや幅を時間変化に合わせて自由にコントロール出来るという利点があります。
しかし打ち込みがとても面倒くさいので、この方法はここぞという箇所だけにして後はモジュレーションなど通常の方法でビブラートを掛けたほうが効率的です。