コード進行の基本的な考え方

カデンツ

トニックはそのスケール内で最も強い安定感と終始感があります。
コード進行はこのトニックを軸にして、「トニックから始まり、トニックで終わる」のが基本です。
その進行は、

  • T→D→T
  • T→S→D→T
  • T→S→T
  • T→D→S→T

の4種類が考えられます。
ドミナントはトニックに進行するのが基本なので、古典和声では4番目の進行は基本の進行には含めません。

このようなトニックに向かうコード進行のまとまりをカデンツ(ケーデンス)といいます。
カデンツは終止形という意味です。

ドミナントはV、CメジャースケールならGコードですが、多くの場合でV7、つまりG7コードが使用されます。
このV7コードは「メジャーコード+短7度」で構成されるセブンスコードなのですが、通常のセブンス系コードとは異なる機能を持つのでドミナントセブンスコードという特別枠に分類します。

V7からIへの進行をドミナントモーションといい、強い安定感があり頻繁に使用される形です。
(詳しくは後述)
特にIのコードが基本形(転回形でない)で、メロディがルート音で終わるものを完全終止といい、強い終始感があるので曲の最後などに使用されます。
Iのコードが転回形、またはメロディがルート音でないものは不完全終始といい、終始感が若干薄れます。

サブドミナントからトニックへの進行はドミナントモーションほど強い安定感はありません。
これを変終止といい、讃美歌の終始部分によく用いられていたことからアーメン終止とも呼びます。

■基本のコード進行

曲はCメジャースケールです。

  • C|G7|C (T→D→T)
  • C|F|G7|C (T→S→D→T)
  • C|F|C (T→S→T)
  • C|G|F|C (T→D→S→T)

の順に演奏しています。
(単純化のため、ドミナントのみ4和音にしています)

特に二番目の進行は強い安定感、終始感が得られます。
最後の進行は基本的というより少しコードアレンジをしたような印象があるかもしれません。

コード進行の多くは上記の基本の進行を元にしています。
ただし必ずしもこの形になっているわけでもなく、最初または最後のトニックを省略した形で使用されることも多くあります。

強進行と弱進行

音の進行には強進行というものがあり、「自然で滑らかなつながりになる」とされます。
特に根音(コードのルート音)の進行で重要です。

強進行は「完全4度上行」(完全5度下行)する進行をいいます。
(4度上行と5度下行は同じ進行です)

4度上行(5度下行)が最も自然につながる強進行です。
その他「長短3度下行(長短6度上行)」「長短2度上行」も強進行です。
(準強進行)
「I→VまたはIV→Iにおける5度上行(4度下行)」も強進行に含めることもあります。

強進行以外の進行は弱進行といいます。
(5度上行、2度下行、3度上行)
弱進行は強進行ほど滑らかではありませんが移動可能です。

T→S→D→T進行が強進行、その逆が弱進行

この図の赤色の進行が強進行、青色の進行が弱進行です。
古典和声ではD→S進行は省かれますが、ポピュラー和声では使用されます。

ドミナントモーション

ドミナント→トニックの進行は強い安定感が得られると説明しました。
これはドミナントセブンス(V7)の構成音に理由があります。

V7はCメジャースケールではG7ですから「ソ、シ、レ、ファ」です。
このうち、「シ」と「ファ」の音に注目します。

「シ」と「ファ」は全音程で三つ離れています。
(増4度、減5度)
この響きはトライトーン(三全音)といい、不協和音なのですがその中でも特に悪いものとされています。
曲中にこの響きが表われると強い不安定感が生じます。

G7コードの構成音「ソ・シ・レ・ファ」のうち、シとファの音程がトライトーン

■トライトーン(G7)

この響きが現れた後、ダイアトニックコードの中で最も安定感のあるIに進行させます。
IはCメジャーコードですから「ド、ミ、ソ」ですね。
G7の不協和音であった「シ」は「ド」に、「ファ」は「ミ」にスムーズに移行できます。
トライトーンの反進行による解決

これが「不安定な音が安定した」ことを強く感じさせるため、強い終始感が得られます。
特に3度音程(今回は「ミ」)への解決が重要とされています。
この「V→I」の動きをドミナントモーションと言います。

この不安定と安定を繰り返して音楽の展開を作っていきます。
不安定な響きから安定に進行することを「解決する」(Resolve)と言います。
トライトーンがそれぞれ上下逆方向に移動して解決することをトライトーンの反進行と言います。

このドミナントモーションは本当に頻繁に使用されていて、そのままや少し変形した形であらゆる音楽(特にポップス系)で聴くことができます。

ドミナントを最も強く解決できるのが主要三和音のトニック(ドミナントがG7ならC)で、これがスケールを決定づけています。
ドミナントは「支配する」という意味で、スケールを支配することがその名前の由来です。

VIIのコードもトライトーンが含まれますが、コード自体が特殊なため(VIIm7b5)使用頻度は低いです。
経過和音(コード進行のつなぎ)として使用されるか、VIIはVのルート音が省略されたものとして解釈されます。

マイナースケールのドミナントモーション

マイナースケールでも考え方はメジャースケールと同じです。
ダイアトニックコードの機能分類の項でも説明しましたが、ナチュラルマイナースケールのドミナントは機能として弱いため、ハーモニックマイナースケールで考えます。

Aハーモニックマイナーで考えたとき、V7はE7ですから「ミ、#ソ、シ、レ」です。
「#ソ」と「レ」がトライトーンになっています。

IはAmですから「ラ、ド、ミ」です。
「#ソ」は「ラ」に、「レ」は「ド」に解決され、安定感が得られます。