ボイスリーディングとは

ボイスリーディング(ヴォイスリーディング)というのは和音の構成音をそれぞれ独立したパートとみなして音の動きを考えることをいいます。
声部進行声部連結とも言います。

機能和声は、コードが持つ性格・機能に着目したもので、言うなれば縦の並びの考え方です。
声部進行は、コードが進行するとき、前後の和音の構成音のつながり方に着目したもので、横の並びの考え方と言えます。

ボイスリーディングはコードを人のコーラスで歌う場合を考えると良いです。
各声部は別々のパートなので、機能和声的には普通のコード進行でも横のつながりが適当だと非常に歌いにくいものとなります。

例えば以下の画像のコード進行は機能和声的には何の変哲もないT→S→D→T進行ですが、コードはすべて基本形、ベースはすべてルート音、という単純なものです。
横の繋がりを見ると上下に音程が飛んでいるので滑らかな演奏とはいえません。
全ての楽器が同じ音(例えばピアノなど)ならばまだマシですが、それぞれの声部が独立した楽器だとしたら演奏しにくく、音のつながりも良くないものとなるでしょう。
ボイスリーディングが適当な例

さすがにこれは極端な例で、普通はもう少し演奏しやすいように音符を並べると思います。
それを理論付けしようというのがボイスリーディングです。

ボイスリーディングは機能和声よりも古典和声的な性格が強く、ポピュラー音楽ではあまり重要視されていません。
しかしその考え方はアレンジのヒントになることもあるので、いくつか有用かもしれないものを紹介します。

その前に用語をいくつか簡単に説明します。

外声、内声

和音の最低音と最高音を外声といいます。
外声の内側に配置される音を内声といいます。

上声部、下声部

和音の構成音を音の高低で分けて考えるとき、高い側を上声部、低い側を下声部といいます。

順次進行、跳躍進行

ある音が次の音に進行するとき、2度上下に進行することを順次進行といいます。
3度以上の音程で進行することを跳躍進行といいます。

導音

現在の主音の半音下の音程のことです。
現在のスケールの第7音。
ハ長調ならば「シ」。
ナチュラルマイナースケールの場合は導音はありません。

また、このページでは四和音を基本として考えます。
各音域は上から「ソプラノ」「アルト」「テノール」「バス」と分けます。
(「声部」とはこれらを指す言葉です)
ただし三和音などでバスが登場しない場合もあります。

ボイスリーディングの基本的な考え方

クローズボイシングとオープンボイシング

コードの各音程を配置するとき、構成音を抜かすことなく順に配置することをクローズボイシングといいます。
構成音の順番を変えて広げて配置することをオープンボイシングといいます。
クローズボイシングとオープンボイシング

クローズボイシングは和音をできるだけ密集させるので、四和音ならば一オクターブ内に収まります。
音が密集しているので音に厚みが出ます。
オープンボイシングは一オクターブ以上の音域を使用します。
広げれば広げるほど全体を包み込むような響きを作り出すことができます。

ドロップボイシング

上図のオープンボイシングは、上から2番目の音を一オクターブ下に配置しており、これをドロップボイシングといいます。
上から2番目を落としている(Dropしている)のでDrop2と言います。
上から順に数えることに注意してください。
他にDrop3、Drop4、Dorp2&4(2と4を両方下げる)などもあります。

音程の重複

四つの声部でコードを表すので、そのまま重ねれば四和音のコードを演奏できます。
三和音ならば声部をひとつ省略するか、どこかの声部が同じ音程を演奏することになります。

問題なく重複可能な音程はコードのルート音(第1音)か第5音です。
これらは重複させても響きに大きな影響はでません。
第3音はコードの性格を表す音なので、できるだけ重複も省略もしないのが良いです。

第7音やテンションは重複できません。
これらは進行の方向が限定される音程で、重複させると声部の独立性が失われるためです。
同じように導音(リーディングノート)の重複もできません。

音程の省略

問題なく省略可能なのはコードの第5音です。
第5音はコードの性格に大きな影響はありません。

ルート音は基本的に省略しませんが、複数の楽器で演奏される楽曲で、別のパートがベース音を担当している場合はコード楽器ではルート音を省略できます。

第3音はコードの性格を表す音なので省略できません。
ただし、あえて調性をあいまいにするために省略することはあり得ます。

テンションを使用する場合、すぐ下のコードトーンは省略できます。
テンションはコードトーンが上に変位したものと考え、元の音程に戻すことで解決感が得られます。
(テンションリゾルブ。resolve=解決)
ポピュラー音楽では解決せずそのまま次のコードに移ることも多いです。

第7音やテンションは省略して良いですが、響きが変わるため実際の音を聞いて確認することが重要です。

共通音の保留

共通音というのは前後のコードで使用される音程のうち、音程が共通する音のことです。
例えばC→Fの進行ならば「C音」がそれぞれ共通して使用される音程です。
この音程を移動させないのが共通音の保留です。
共通音の保留

共通音となる音符をひとつの音符にするか分割した二つの音符にするかは自由です。
楽器の種類やアレンジによって変わるので実際の音で判断してください。
ストリングスやシンセパッド系の持続音でコード進行時の音の繋ぎを目立たせたくない場合は繋げると良いでしょう。

共通音以外は最も近い音程にそのまま進行させます。

バスの反行

バスとは最低音のことです。
バスが上行する場合に上声部を下行させるのがバスの反行です。
もちろんその逆もあります。
バスの反行

なお、共通音の保留がある場合は反行のルールは無視できます。

また、あえて反行させずにすべての声部を同じ方向にスライドするように移動させる場合もあります。
(パラレルモーション)
それまで独立していた各声部の動きが統一されるので強い一体感があります。
平行和声

この進行は後述する連続5度や連続8度の禁止ルールに反しますが、各声部の独立性は必要ないので問題ありません。

保持(ペダルポイント)

コードが変わっても特定の音程を連続させることを保持といいます。
ペダルポイントオルガンポイントともいいます。
共通音の保留よりも長く、割と強引に同じ音を続ける特徴があります。
コードトーンだけでは特定の音程を保持することに限界がありますのでノンコードトーンも使用します。

ペダルポイントは低音または高音で音程を保持することが多いです。
どの音を保持するかに決まりはありませんが、現在のキーの1度や5度を使用することが多いです。

■低音のペダルポイント(C音)
低音のペダルポイント

■高音のペダルポイント(G音)
高音のペダルポイント

クリシェ

全体のコードはそのままで、ひとつの声部だけが半音で進行するものをクリシェといいます。

■クリシェ
※最後のFコードはクリシェとは無関係
クリシェ1

クリシェは上行/下行の両方で用いられます。
どの音を移動させるかに決まりはありませんが、外声(最高音/最低音)で使用することが多いです。

パッシングディミニッシュもクリシェの一種と考えることができます。

約束事、禁則

さほど重要ではない約束事や禁則をいくつか説明します。
「禁則」は本来はやっちゃダメなことなのですが、ポピュラー和声では重要視されておらずたびたび無視されます。
ストリングスのアレンジなどでは参考にすると良いかもしれません。

複音程進行の禁止

1オクターブ(8度)を超える音程を複音程といいます。
複音程、つまり9度以上の跳躍進行(ド→オクターブ上のレ、など)は演奏しづらく音的にもつながりが希薄になるので避けるべきです。
(ちなみに1オクターブ内の音程を単音程といいます)

連続1度、連続5度、連続8度の禁止

連続○度とは、二つの声部の音程差が連続して同じになることです。
同じ声部間で1度、5度、8度の音程差が連続するのは避けます。
連続8度、5度の禁止

ピアノロールでは連続1度を上手く表示できないので省略しています。
要するに全く同じ音程の重なりが連続して出現するのが連続1度です。

これらは各声部の独立性が失われ、特定の声部が強く協和(強調)してしまうのが良くないので禁止されています。
コード進行の結果、別の声部間で連続5度や8度が現れるのは問題ありません。
避けるのは同一の声部間で連続する場合です。
例えばソプラノ⇔テノール間の5度関係があるが、次の進行で解消され、新たにソプラノ⇔アルト間に5度関係が現れた場合などは問題ありません。

完全5度→減5度が連続する場合は問題ありません。
また、共通音の保留で二つの声部の音程がそのまま連続する場合も問題ありません。

ちなみにエレキギターでよく使用されるパワーコードは三和音の3度抜き、つまり1度と5度を弾き続けるので思いっきりこのルールに違反しているように見えます。
しかし、このルールは「異なるパートに現れる連続5度(8度、1度)」の場合に禁止されていて、ギターのようにひとつのパートを演奏する楽器の場合はルールの範囲外です。
つまり、各音程の独立性を必要としておらず、またわざと強調するために弾いているのでそれは目的通りなので良いということです。
(そもそもロックに和声学のルールなどナンセンス、と考えることもできます。もはや理論ではありませんが)

古典和声でも、音に厚みを出すためにあえて連続8度で演奏することがあります。
これも独立した声部とはみなさないので禁則扱いされません。

導音の重複の禁止

これは「連続1度(8度)の禁止」と同じ理由から禁止されます。
導音というのは主音の半音下の音程のことです。
(CmajスケールならCが主音、Bが導音)

導音(リーディングノート)は主音に進行するのが原則ですから、導音が重複すると必然的に連続1度あるいは連続8度になってしまいます。

対斜は避ける

対斜とは、異なる声部間で増1度(減8度)の関係が発生することを言います。

増1度は短2度(長7度)と同じ音程ですが、短2度関係は許されます。
増1度は現在のスケールにない音程を使用する際に現れます。
つまり借用和音(モーダルインターチェンジ)や転調がある場合に気を付ければ良いです。
対斜

対斜は五線譜では臨時記号(#、♭、♮)が付く音符がある場合に発生する可能性があります。
ただし転調の場合は臨時記号を付けないので注意が必要です。
DTM(DAW)ではピアノロールで音符を打ち込むので対斜になってもわかりにくいです。

異なる声部間での増1度関係がダメなのであって、同じ声部で進行するのは本来の進行なので問題ありません。
本来同じ声部で行うべき半音進行を別の声部で行うと気持ち悪い感じがするので避けるべきとされています。

ただし、進行する和音がdimコード(減和音)の場合は対斜は許されます。