メジャー/マイナー以外のスケール1

今までの音楽理論の解説では「メジャースケール」と三つの「マイナースケール」を基本に説明してきました。
これ以外にもスケールはたくさん存在します。

スケールというのは音程の並べ方、すなわち1オクターブをどのように分割するかの取り決めです。
1オクターブを全音2つ、半音、全音3つ→半音、の順に並べたスケールを全音階(ダイアトニックスケール)といいます。

長調と短調の違いは、この音階の開始位置の違いです。
長調なら「全全半全全全半」、短調なら「全半全全半全全」の並びで、開始位置が変わるだけで全音と半音が現れる順番は変わりません。

スケールの音程は全部で7個なので、同じようにしてあと5つのスケールが作れます。

教会旋法

Cメジャースケールは「ドレミファソラシ」ですが、これを音程はそのままで「レミファソラシド」と「レ」から読んでみます。
(Dメジャースケールではない!シャープやフラットは付きません。)
音の並びは「全半全全全半全」になりますね。
「ミ」から読めば「半全全全半全全」です。
これらは音程の並び順が違うので、別々のスケールと考えることができます。
これは「ラ」から読めばメジャースケールがマイナースケールに代わる、というのと考え方は同じです。

ドレミファソラシで7音ですから、これらのスケールも7つあります。
以下にそのスケールを示します。

■アイオニアン(イオニアン)スケール
アイオニアン(イオニアン)スケール

■ドリアンスケール
ドリアンスケール

■フリジアンスケール
フリジアンスケール

■リディアンスケール
リディアンスケール

■ミクソリディアンスケール
ミクソリディアンスケール

■エオリアンスケール
エオリアンスケール

■ロクリアンスケール
ロクリアンスケール

これらを文字でまとめると以下のようになります。
(文字幅をそろえるためドレミ表記の「ファ」は「フ」と表記しています)

  • ドレミフソラシドレミフソラシ
  • CDEFGABCDEFGAB
  • 全全半全全全半全全半全全全半
  • アドフリミエロ

「アドフリミエロ」はそれぞれのスケール名の頭文字です。
例えばGミクソリディアンなら「ソラシドレミファソ」で、音程の並びは「全全半全全半全」となります。

赤の四角で囲った音程はそのスケールの特性音(特徴音)と呼ばれるもので、他のスケールとの差が最も明確になる音程です。

スケールの開始位置を次に進めるのは、ひとつ後ろに移調するのと同じ構成音になります。
例えばCドリアンの構成音はB♭majスケールの構成音と同じです。
CフリジアンはA♭maj、CリディアンはGmaj、CミクソリディアンはFmaj、CエオリアンはE♭maj(=Cmin)、CロクリアンはD♭majスケールとそれぞれ同じ構成音となります。

これらを教会旋法(Church Mode)と言います。
西洋の音楽は聖歌などの教会音楽と共に発展し、そこで用いられていたスケールであることが元となっています。

各スケール名は慣れるまではややこしいと思いますが、それぞれに由来があってこうなっているので覚えるしかありません。
アイオニアンスケールはメジャースケールと、エオリアンスケールはナチュラルマイナースケールと同じ構成音です。
これらは教会旋法から派生したスケールです。

スケールとモード

教会旋法の旋法は英語では「モード」といいます。
スケールは「音階」で、別物なのですが似た概念です。

音階は、名前の通り音を階段状に並べたものです、
例えば1オクターブを7つに分けてそれぞれを「全全半全全全半」の順に並べたものが音階です。

旋法は、音階の基準(中心音)をどこにするかの取り決めです。
中心音を定めることで、それぞれの音程がもつ性格が決定されます。
同じ「ド」でも、ハ長調とイ短調とでは性格が異なります。
基準とする音をずらすと音階が持つ雰囲気が変化することは上掲のサンプル音源で感じ取れたと思います。

よく聞く「ハ長調」や「イ短調」なども、「Cを中心音としたメジャーモード」「Aを中心音としたナチュラルマイナーモード」と同じ意味です。
「スケール」という言葉を使うとき、モードの概念も含んでいることがほとんどです。

メジャー系/マイナー系モード

全音階のスケールは第三音(Cキーなら「ミ」)がフラットか否かでメジャー系とマイナー系に分類できます。
メジャースケールとメロディックマイナースケールの違いは第三音であるのと同じです。

つまり、メジャー系は

  • リディアン
  • アイオニアン
  • ミクソリディアン

マイナー系は

  • ドリアン
  • エオリアン
  • フリジアン
  • ロクリアン

と分類できます。
シャープが付くほど明るく、フラットが付くほど暗い印象があるので、上記もその順に並べています。

核音と浮動音

スケールの完全1度、完全4度、完全5度(と完全8度)の音程を核音といい、それ以外の音程を浮動音といいます。
核音は安定した音程で、この核音の間に浮動音を配置することでスケールを構成します。
Cmajスケールならば「C、D、E、FG、A、B、C」です。
Cminスケールなら「C、D、E♭、FG、A♭、B♭、C」となります。
浮動音は変化しますが、核音は原則として変化しないのが特徴です。
全音階は浮動音をふたつずつ配置しますが、浮動音をひとつずつ配置すればペンタトニックという五度音階が作られます。

この特徴は多くのスケールに見られますが、リディアンとロクリアンは核音が変化しています。
このため、この二つは他のスケールよりも安定性に欠けます。
リディアンは独特な浮遊感のあるスケールとなりますが、ロクリアンはスケールの5度がフラットであり主和音が減和音となるためメインではほとんど用いられません。

モードの使い道

スケールとして使う

モードは一般的に広く使われているメジャー/マイナーといったスケールとは異なる響きを持つので、一風変わった雰囲気を出すことができます。
民族音楽のような雰囲気を出したい場合によく使われます。

ただし、今まで説明してきた機能和声(コード進行)はメジャー/マイナースケールを前提としたもので、これをそのまま当てはめることはできません。
むしろ機能和声の考え方に縛られないところがモードの魅力とも言えます。
機能和声は優れた考え方でいろんなハーモニー付けができるのですが、良くも悪くも強進行とドミナントモーションが至るところに使われていて、どれも似た味付けになりがちです。
さらに新しい響きを求めた音楽家達がたどり着いたのが、古くから使われていた教会旋法だったわけです。

コード進行を多用するとモード感が薄れてしまうため、ワンコード、ツーコードなどの少ないコードで作られることが多いです。
トライトーンを含むコードはドミナントモーションを予感させてしまうので使用に注意が必要です。
特性音はそのモードらしさを決定づける音ですので、意識して使うと効果的です。

以下は各スケールを使用したサンプル曲です。
キーはすべてCです。

■ドリアンスケールのサンプル曲
Cm|F|Cm|F|C
(最後はピカルディの三度)

■フリジアンスケールのサンプル曲
Cm7|Dbmaj7|Eb7|Fm Eb|Cm

■リディアンスケールのサンプル曲
C|C|D7|D7|C

■ミクソリディアンスケールのサンプル曲
C7|C7|C7|Am/C|C7|C7|Bb|C

アイオニアンとエオリアンは普通の長調と短調と同じです。
ロクリアンスケールはIがdimコードで、普通の曲を作るのは難しいので省きます。

モードをそのままスケールとして用いて曲を作ることもできますが、通常のメジャー/マイナー系の曲にモードを取り入れることもできます。
例えばギターソロ部分だけを一時的にフリジアンにするなどの使い方があります。

また、これらのスケール上で構成される和音を別のスケールから使用することがあります。
(借用和音)
曲全体ではメジャー/マイナーを基本として、特定の箇所に教会旋法などのスケールから和音を借用します。

このような使用方法をモーダルインターチェンジ(旋法転換)といいます。
借用和音は単に和音を借りるのではなく、その個所だけモードを変えていると考えます。
スケール外の音程が使えるのは一時的にモードが変わっているから、と解釈するのです。
(曲が転調すれば使える音程が変わるのと同じ)

すでに説明したセカンダリードミナントや三種類のマイナースケールの切り替えなどもモーダルインターチェンジと言えます。
メジャー系モードは別のメジャー系モードから、マイナー系モードは別のマイナー系モードから和音を借用することもできます。

「モード」という音楽

モーダルインターチェンジをさらに推し進めるとコード進行という概念が薄れてきます。
例えばキーがCで「C→G」という進行があるとき、普通はコードが動いてもメロディやテンションは「ドレミファソラシ」の中から選んで演奏します。
これはCコードの時は「Cアイオニアンモード」、Gコードの時は「Gミクソリディアンモード」で演奏していると解釈できます。

これを、例えばGの時にCリディアンで演奏するのです。
つまり「ドレミファ#ソラシ」で演奏されればそれはCリディアンモードへの転換になります。
ファは特性音であり、モードチェンジ後はそれを示すためになるべく早い段階で特性音を演奏すべきとされます。
ただし、ファ#をすぐにソに解決させると機能和声的な響きとなるので、モードでは普通は行わないような跳躍進行が多用されます。

これはアドリブ(即興音楽)を重視するジャズから生まれた演奏方法で、コード進行に拘束されない自由なメロディを演奏することができます。
反面、コードによる進行感が薄く、大きな変化を付けることが難しいのでポピュラーミュージックに慣れた人からは退屈に感じるかもしれません。

普通の作曲やDTMなど、即興音楽をしない人にとってモードは「演奏したい音が先にあって、後から理論付けするための道具」といった感じで捉えると良いと思います。
上手く理論付けできなくとも響きが良ければそれで良いのです。

他の派生スケール

教会旋法はメジャースケールの構成音の開始位置を読み替えたものです。
これと同じことはハーモニックマイナースケールとメロディックマイナースケールでも可能です。
ナチュラルマイナースケールはメジャースケールの開始位置を読み替えたものなので省かれます。

以下に各スケールからの派生スケール一覧を示します。
比較のためにメジャースケールからの派生も載せておきます。

なお、「♮」はナチュラル記号で、#や♭を無効にするという意味があります。
「ロクリアン♮6」はロクリアンスケールの6番目の音から♭を取り除いたスケール、という意味になります。

メジャースケールからの派生
開始音 スケール名 1 2 3 4 5 6 7 8
1 アイオニアン i ii iii iv v vi vii i
C D E F G A B C
2 ドリアン i ii ♭iii iv v vi ♭vii i
C D E♭ F G A B♭ C
3 フリジアン i ♭ii ♭iii iv v ♭vi ♭vii i
C ♭D E♭ F G A♭ B♭ C
4 リディアン i ii iii ♯iv v vi vii i
C D E F♯ G A B C
5 ミクソリディアン i ii iii iv v vi ♭vii i
C D E F G A B♭ C
6 エオリアン i ii ♭iii iv v ♭vi ♭vii i
C D ♭E F G ♭A ♭B C
7 ロクリアン i ♭ii ♭iii iv ♭v ♭vi ♭vii i
C D♭ E♭ F G♭ A♭ B♭ C
ハーモニックマイナースケールからの派生
開始音 スケール名 1 2 3 4 5 6 7 8
1 ハーモニックマイナー i ii ♭iii iv v ♭vi vii i
C D E♭ F G A♭ B C
2 ロクリアン♮6 i ♭ii ♭iii iv ♭v vi ♭vii i
C D♭ E♭ F G♭ A B♭ C
3 アイオニアン#5 i ii iii iv ♯v vi vii i
C D E F G♯ A B C
4 ドリアン#4 i ii ♭iii ♯iv v vi ♭vii i
C D E♭ F♯ G A B♭ C
5 ハーモニック・マイナー・
P5th・ビロウ
i ♭ii iii iv v ♭vi ♭vii i
C D♭ E F G A♭ B♭ C
6 リディアン#2 i #ii iii #iv v vi vii i
C D# E F# G A B C
7 スーパー・ロクリアン♭7 i ♭ii ♭iii ♭iv ♭v ♭vi ♭♭vii i
C D♭ E♭ F♭ G♭ A♭ B♭♭ C
メロディックマイナースケールからの派生
開始音 スケール名 1 2 3 4 5 6 7 8
1 メロディックマイナー i ii ♭iii iv v vi vii i
C D E♭ F G A B C
2 スーパー・ドリアン
(ドリアン♭2)
i ♭ii ♭iii iv v vi ♭vii i
C D♭ E♭ F G A B♭ C
3 スーパー・フリジアン
(リディアン#5)
i ii iii ♯iv ♯v vi vii i
C D E F♯ G♯ A B C
4 スーパー・リディアン
(リディアン♭7)
i ii iii ♯iv v vi ♭vii i
C D E F♯ G A B♭ C
5 スーパー・ミクソリディアン
(ミクソリディアン♭6)
i ii iii iv v ♭vi ♭vii i
C D E F G A♭ B♭ C
6 スーパー・エオリアン
(エオリアン♭5)
i ii ♭iii iv ♭v ♭vi ♭vii i
C D ♭E F ♭G ♭A ♭B C
7 スーパー・ロクリアン
(ロクリアン♭4、オルタード)
i ♭ii ♭iii ♭iv ♭v ♭vi ♭vii i
C D♭ E♭ F♭ G♭ A♭ B♭ C
おまけ
- ハーモニックメジャー i ii iii iv v ♭vi vii i
C D E F G A♭ B C

ハーモニックメジャースケールはハーモニックマイナースケールと同じ理屈で作り出されたスケールです。
メロディックメジャースケールもあるのですが、これはスーパーミクソリディアンスケールと同じ構成音です。
(メジャースケールの6、7度の半音下げ)
これらのスケールを使用する場合、通常のメジャースケールはナチュラルメジャースケールと呼びます。